逆転裁判シリーズと「采配のゆくえ」
■「采配のゆくえ」独自の要素
以上のことから、逆転裁判シリーズを遊んだことのある人が「采配のゆくえ」をプレイすると「逆転裁判シリーズの影響を受けている」あるいは「逆転裁判シリーズにわざと似せている」という感想を持つ。しかし、「采配のゆくえは逆転裁判シリーズのパクリ」と言う人は少ない。
理由は大まかにわけて二つある。
【世界観】
逆転裁判シリーズは近未来の日本※1が舞台となっているが、「采配のゆくえ」は関ヶ原の戦いが舞台。逆転裁判シリーズのシステムを利用した上で、コーエーは自らの得意とする歴史ドラマを描いているわけだ。
※1:シリーズ第一作「逆転裁判」は2001年に発売されたゲームだが、ゲーム内の日付はゲーム開始時点で2016年となっている。
【合戦パートと天眼】
合戦パートでは敵味方の軍隊がマップ上に表現され、主人公が指示を出したり武将が独自の判断で行動することで戦場が動いていく。敵味方同数だと戦力が拮抗してしまうが、「鉄砲射撃」を持っている部隊は、前方横一列に並んだ敵を一斉に撃破することができ、「騎馬突撃」を持っている部隊は前方縦一列に並んだ敵を一斉に撃破することができるなど、歴史ゲームならではの要素もある。この合戦パートの最中に説得パートが挿入される場合があるが、敵の軍隊を撃破する(味方の軍隊が撃破される)という意味では、むしろ合戦パートの方が説得パートよりも重要なのかもしれない。
また、合戦パートの中では「天眼」というシステムがあり、パズルゲームの要素を用いて絶体絶命の局面を打開するシーンが用意されている。
「采配のゆくえ」合戦パート
つまり、「采配のゆくえ」は、逆転裁判シリーズをお手本としながら、コーエーが自らの得意分野において新要素を加えた“合戦アドベンチャーゲーム”として成立しているのである。
【反証:「維新の嵐 疾風龍馬伝」】
コーエーテクモ(旧コーエー)は2010年11月18日、「采配のゆくえ」の事実上の後継作である「維新の嵐 疾風龍馬伝」を発売した。
DS「維新の嵐 疾風龍馬伝」 |
PC「維新の嵐」 |
「維新の嵐」はもともと1988年から続いているコーエー作品の一つで、「維新の嵐」「維新の嵐 幕末志士伝」の二作が存在する。だが上のパッケージを見てもわかるように、幕末を題材とした同タイトルである以外はほぼ別物として製作されている。「維新の嵐」「維新の嵐 幕末志士伝」はリコエイションゲーム※2、「維新の嵐 疾風龍馬伝」はアドベンチャーに分類される。
「維新の嵐 疾風龍馬伝」のキャラクターデザインやインターフェースはほぼ「采配のゆくえ」から引き継いでおり、逆転裁判シリーズのようにロジックを要求するものではなくなっている。「采配のゆくえ」が逆転裁判シリーズとの類似点において批判されることはほとんどないため、同シリーズとの差別化のためにわざわざ似せないようにしたとは考えにくい。
つまり、逆転裁判シリーズに似せて開発されたのは「采配のゆくえ」だけということになる。
もっと踏み込んだ想像が許されるのならば、「采配のゆくえ」は戦国BASARAシリーズに対する痛烈な皮肉を含みながら開発された作品なのではないか。
「先発作品を参考にゲームを作るなら、自分たちならではの独創性を入れるべきだ」という開発陣の意気込みが聞こえてきそうだ。
※2:リコエイションゲームとは、コーエーが提唱するシミュレーションゲームとロールプレイングゲームが融合したゲームの総称。維新の嵐シリーズに始まり、大航海時代シリーズや太閤立志伝シリーズなどに引き継がれる。