総括

■差別化の有無

 これまで両者を比較してきた通り、戦国無双シリーズと戦国BASARAシリーズの類似点は、ゲーム史上まれに見る多さである。
 システムの類似性などについては、操作性やゲーム性の向上を目指す上で偶然重複したものもあろう。しかし同業他社である以上、コーエーは戦国BASARAシリーズの、カプコンは戦国無双シリーズの情報を収集しているのは間違いない。キャラクター性やゲームソフトのサブタイトルがここまで重複するのは、偶然の一致ではまずありえない

 一部ではこれらの比較を取るに足らないものとして見る人もいる。すなわち「ゲーム業界はこれまでパクリパクラレでやってきたのだから、無双とBASARAの類似もどうということはない」という考え方の持ち主だ。
 筆者はこの意見に賛同しかねる立場である。
 確かにゲーム業界は数多くの類似品が出回り、今では有名になったビッグタイトルですら、最初は他の名作ゲームの模倣作品であったという例は多い。具体的にはファイナルファンタジーシリーズ、デジタルモンスターシリーズなどがある。

【具体例1:ファイナルファンタジーシリーズ】
FC「ファイナルファンタジー」
FC「ファイナルファンタジー」
1987年12月18日発売、スクウェア
FC「ドラゴンクエスト」
FC「ドラゴンクエスト」
1986年5月27日発売、エニックス

 今でこそ日本でも有数のRPGコンテンツとして有名なファイナルファンタジー(以下FFと表記)であるが、第一作が発売された時点では「『ドラゴンクエスト(以下ドラクエ)』の亜種」として認識されていた。事実、シリーズの生みの親の一人である坂口博信氏はドラクエのビジネス的成功を見て、「ファミコンでもRPGが作れると気づいた」と語っている。また、石井浩一氏も坂口氏が「ドラクエのようなRPGを作りたかった」と話していたと述べている。
 登場当時は物議を醸したものの、「ファイナルファンタジー」は大ヒットを記録。その過程で、
(1)RPG初心者向けに配慮したシンプルな操作のドラクエに対して常に最新のゲームエンジンやバトルシステムを開発、
(2)任天堂ハードで展開するドラクエに対してSCEハードで開発・販売、
(3)容量を削減してシンプルに開発するドラクエに対して大容量で開発する
などドラクエとの路線の違いを明確化し、その後もシリーズを重ねていくうちにゲーム内での映像表現や音楽表現において常に革新的な技術を導入することでゲーム業界に多大な影響を与えるビッグタイトルに成長していく。
 2003年、FFの発売元であるスクウェアとドラクエの発売元であるエニックスは合併し、スクウェアエニックスと社名を変えた。その後2004年12月には「ドラゴンクエスト&ファイナルファンタジー in いただきストリートSpecial」では両シリーズのキャラクターが共演。両シリーズの歩み寄りが明確に見てとれる。

【具体例2:デジタルモンスターシリーズ】
「デジタルモンスター」
「デジタルモンスター」
1997年6月発売、バンダイ
GB「ポケットモンスター」
GB「ポケットモンスター」
1996年2月27日、ゲームフリーク

 デジタルモンスター(以下デジモンと表記)は、先にバンダイで爆発的なヒットとなった育成ゲーム機「たまごっち」にバトル要素を加えた、男の子向けの「戦うたまごっち」をコンセプトとして開発されたコンテンツ。架空のモンスターを育成するのはたまごっち譲りであるが、プレイヤーがモンスターを育成し戦闘に出す、モンスターが戦いに勝つと経験値を貯めて進化すると強くなるなどの設定から、先にヒットしていた他社商品であるポケットモンスター(以下ポケモンと表記)との類似点が多い。もちろん、○○モンスター(○○モン)という名前も混乱を招きやすい。当然、デジモンはたまごっちの二番煎じであると同時にポケモンのパクリであるという認識をしていた人がかなりいたということだ。
 しかし「モンスターを育成し戦闘させる」という基本コンセプトを先発のポケモンと共にしているのみで、後の商品展開はまったく違ったものとなっている。ポケモンの「たくさんのモンスターを収集し図鑑を完成させる」という要素は採り入れられず、むしろ「数少ないモンスターを育成する」という方面にゲーム内容を進化させていったのだ。アメコミ風のモンスターデザインもポケモンとの差別化の一環となっている。
 ポケモン・デジモンは共にアニメ作品が人気を博したが、アニメ作品のコンセプトも大きく違ったものとなっており、既に両者は別物として共存していると言ってよい

 FFにせよデジモンにせよ、最初の作品が登場したときは先発作品と酷似していることは否定できなかったであろうが、時間をかけて独自の路線を確立していくことで先発作品との差別化をなしている
 先に考察した「采配のゆくえ」も逆転裁判シリーズの模倣から始まっていることは確実で、他に独自の要素があるからこそ逆転裁判とはまた別の魅力があると言える。
 先述した「ゲーム業界はこれまでパクリパクラレでやってきた」という論は、先発作品との差別化があって初めて成立するように思われる

 果たして戦国BASARAシリーズは、戦国無双シリーズとの差別化ができているのか。これまで両シリーズに触れてきた筆者は、その問いに否と答える他ない。
・戦国時代という世界観
・有名な戦国武将をキャラクター化し操作するキャラゲーとしての側面
(しかもキャラクター化された武将の多くが重複している)
・一騎当千アクションゲームというコンセプト ※
※ 一騎当千アクションゲームというジャンルを確立したのは無双シリーズだが、これを模倣してドラッグオンドラグーン、戦神、NINETY-NINE NIGHTSなどが発売されている。ただしいずれもファンタジー的世界観のもとに製作されたアドベンチャーゲームで、一騎当千アクションであるという以外に無双シリーズとの類似点はない。
PS2「ドラッグオンドラグーン」
PS2「ドラッグオンドラグーン」
2003年9月11日、スクウェアエニックス
PS2「戦神」
PS2「戦神」
2005年11月24日、元気
XBOX360「NINETY-NINE NIGHTS」
XBOX360「NINETY-NINE NIGHTS」
2006年4月20日、マイクロソフト

 上記三つのうちどれか一つでも違う要素を持っていたならば、BASARAは無双との関連性を抜きにして語ることができただろう。
(日本の戦国時代ではない世界観にする、オリジナルの戦国武将を主人公にする、もしくはアドベンチャーゲームとして開発するなど)
 戦国無双シリーズは大まかに史実を追ったストーリーを展開し、戦国BASARAシリーズはゲーム内で独自の史実を持っているという違いは辛うじてあるが、両シリーズを知らない大多数の人間から見ると無双とBASARAの明確な違いはない。また、無双シリーズを遊んでいたユーザーが初めてBASARAを遊んだとしても、操作方法などはほとんど同じなので説明書を読まなくても遊べるという事態が発生する。
 先発作品との差別化が必要だと述べた。それは何もゲームのみに限らない。差別化はサブカルチャー、否、もっと言ってしまえば文化すべてに共通する要件ではないか。

 差別化は、作品が多数開発されシリーズのカラーが固まることで進む。
 戦国BASARAシリーズは2005年に第一作「戦国BASARA」が発売されたが、「戦国BASARA3」までの様々な商品を開発していく段階で、BASARA特有の、BASARAでしかできない唯一のシステムを開発しただろうか。残念ながら答えは否である。