総括

■小林裕幸氏とコーエーの相克関係

 もともとコーエー(現コーエーテクモ)とカプコンの両者は、創業当初から自らの得意分野を武器としてゲーム業界を生き残ってきた。コーエーは歴史シミュレーションゲーム、カプコンはアクションゲームの製作に秀でている。
 二社が同じゲーム分野で一騎討ちを行う機会は、戦国BASARAシリーズが開発されるまではほとんどなかった。

 戦国BASARAシリーズのプロデューサーを務める小林裕幸氏は、インタビューで以下のように語っていたことがある。
 03年の秋ごろに、群がってくるたくさんの敵を1人で倒すいわゆる「一騎当千」を体験できるアクションが人気を集めていて、「これをうち(カプコン)が作ったらどうなるんだろう」と思ったのがきっかけです。「アクションといえばカプコン」と言われるようにアクションには自信がありましたから、絶対にいいものになると思っていました。

(出典:まんたんウェブ、2006年7月27日)

 2003年の秋頃といえば、「真・三國無双3」や「ドラッグオンドラグーン」が発売された時期である。このインタビューを信じるのであれば、小林氏はこれらのゲームのいずれか、もしくはどちらも遊んだ経験があり、そこから戦国BASARAの着想を得たということになるだろう。
 その後も「戦国BASARA2 英雄外伝」「戦国BASARA3」の購入者向けWEBアンケートからも読み取れるように、比較的最近になってもスタッフ全体が、あるいは小林氏本人が無双シリーズを強く意識していることが理解できる。

 意識がリスペクトの部類ならよい。


【ワゴンセール発言】
 2011年3月21日、小林裕幸氏はツイッターにおいて無双シリーズのネガティブキャンペーンに類する発言をした。

 フォロワーの一人が「今、『戦国無双3 Z』を遊んでいます」という趣旨の発言をした後、それに対して「『戦国無双3 Z』はワゴンセールになっていたよ!」と返信したもの。
 ワゴンセール(ワゴン)とは、ゲーム業界で「在庫処分セール」「商品の投げ売り」を示す言葉で、もちろんゲームとしては駄作であることを表現したもの。
 小林氏の発言を意訳すると、「今、君が遊んでいる『戦国無双3 Z』は投げ売りされるほどの駄作だよ」ということになる。

 実際に「戦国無双3 Z」が投げ売りされていたかどうかの真相はともかく、この発言により、「BASARAシリーズの開発者は、無双シリーズに対して強い悪意を持っている」との確信を得た人は多いだろう。筆者もその一である。

 なお、この不用意な発言は、すぐさまゲームブログで取り上げられ話題となった(はちま起稿オレ的ゲーム速報@刃神羅@ゲーム速報)。

 コーエー(コーエーテクモ)の側は、戦国BASARAシリーズやカプコンに関して何かしらの発言を行ったことはなく、完全に静観を決め込んだ形となっている
 コーエー主催のイベント「戦国楽市楽座」(2010年3月6日・7日)では、戦国武将グッズや関連書籍を販売する物販エリアが設置され、戦国時代をエンターテイメントと捉える多数の企業が出展した。しかしその中にカプコンのブースはなく、関連グッズも販売されなかった(参照URL:戦国楽市楽座)。前年9月にテレビアニメの放映が終了し、戦国BASARAシリーズの人気が絶頂にあったことを考えると、この時期に戦国BASARAシリーズ関連商品を販売しない戦国イベントは珍しい。
 このことからもコーエーとカプコンの間に横たわる溝は深いものであるように思われる。仮にユーザーが望んだとしても、この二社についてはFF・ドラクエのようなコラボレーション作品の実現はないだろう。